●活字書体
活字書体は、どんな文章でも組めるように、すべての文字をあらかじめデザインしています。いわゆる「レタリング」とはこの点が異なっています。
活字の書体って、昔からあるものとか、機械が作りだすものとかと思っているひとがいるかもしれませんが、じつは人の手によって創られているのです。いまのデジタルの時代になっても変わりません。
写本はそもそも書写されたものだから個人個人の筆跡というものがあり、身体性がからんでいます。刊本では書写されたものを彫刻することで様式化されるので、身体性はある程度封じ込められているということです。それは活字書体として規格化されることになります。単純化、合理化と言い換えてもいいでしょう。
活字書体というのは、書写からダイレクトに転換するということではなくて、いったんは彫刻の工程を経なければなりません。活字書体にするには彫刻という工程を経なければならないのです。書写から彫刻への転換によって様式化されます。さらに活字書体として合理化され、判別性や可読性がたかめられることになるのです。
判別性というのは、他の文字との差異が見分けやすいかということです。書写のままだと、こういう見間違いが多くなりやすいのです。可読性とは読みやすさということです。文章になったときに視覚への負担が少ないかどうかということです。だから読むときにストレスを感じないように、大きさや太さを揃えたりします。
活字書体ではそれがいちばん大切ですが、デザインそのものも特に見出し用書体では大切なことです。誘目性すなわち目に付きやすいかどうかということです。判別性、可読性、誘目性とは書体選択のための三要素といわれますが、書体設計においてもどこにポイントを置くかが大切なことなのです。
●字体
「書体」と「字体」の区別もなやましいところです。字体とは、『大辞泉』にはつぎのように書かれています。
じ‐たい【字体】
1 一点一画の組み合わせからなる文字の形。定型化された点画の組み合わせ。一つの字でも、字画数の違いによって、正字・
俗字・新字・旧字などと区別する。
2 「書体(1)」に同じ。
字体は1の意味で使ったほうがいいようです。とはいえ、字体と書体とには深い関連あります。書体の変遷とともに、字体も筆順も異なっているのです。篆書体を真書体の字体で書くことはできませんし、近代明朝体を書写の真書体の字体で書くことには違和感があります。
●フォント
活字書体のことをよくフォントといっているひとがいます。書物では活字、コンピューターではフォントと思っているひとが多いようです。おなじく『大辞泉』で調べてみると、ちゃんと書いてあります。
フォント【font】
活字で、同一の書体・大きさの、大文字・小文字・数字・記号などの一揃い。
もともとはIBM社のタイプライターの活字記憶媒体の商品名だったそうですから、活字記憶媒体という意味でもまちがいではなさそうですが、活字書体のことではないということは確かです。
図:フォント
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