●ふでづかい
「た」「に」「な」などに脈絡があり、一筆書きのようになっています。「ほくと」や「たいら」では脈絡が極めて少ないのと対照的です。「まわし」はつややかなカーブで描かれ、「はらい」はゆるやかです。また「むすび」は小さく締まっています。
●まとめかた
「あ」「の」「め」などが正円に内接します。私の分類案でいえば、いぶき・ひのもと体の楕円形から、ゆたか・ひのもと体の正方形に変化していく過渡期にあるように思われます。カタカナもまた、ひらがなと同様に正円に内接するようです。
●ならびかた
ベタ組みを基本に設計しています。
川口印刷所
1911年(明治44年)3月創業。川口芳太郎(1896−1985)が社長に就任してから大きく発展をとげた。1943年(昭和18年)3月に川口印刷株式会社に改組、翌1944年(昭和19年)5月には帝国印刷株式会社と改称。戦後は1946年(昭和21年)から1949年(昭和24年)にかけて、大蔵省から管理工場の指定をうけて、紙幣の印刷をおこなっていた。1947年(昭和22年)9月には、現在の社名である図書印刷株式会社となった。さらに1948年(昭和23年)5月に学校図書株式会社を設立して、教科書出版事業に進出している。
原資料は『日本印刷需要家年鑑』(印刷出版研究所 1936年)のなかの、「組版・印刷・川口印刷所 用紙・三菱製紙上質紙」と明記されたページ(16ページ)です。
印刷は川口印刷所ですが、ここに使われている9pt活字の和字書体がどのようにして制作されたのかはわかりません。大正時代に別の印刷会社で印刷された書物にも同じような書体をみることができます。川口印刷所で使われたことは確かですから、川口印刷所9pt活字ということにしておきます。
ある方は、この書体を「うりざね顔で柳腰」と形容されました。古くから美人の典型とされたことばです。私も川口印刷所9pt活字の美しさに魅せられて、復刻しようと思いました。
戦前に発売された書物に川口印刷所9pt活字と同様の書体が使われているのをたびたび見かけます。この時代を代表する書体のひとつだったのではないでしょうか。
■組み見本
カタカナも、原資料から清音の文字すべてのキャラクターが抽出できましたので、ひらがなと同じように全体的な大きさ、結構などを修整していきました。
漢字書体は、
左:宝玉
中:聚珍
右:武英
『夏みかん酢っぱしいまさら純潔など』
(鈴木しづ子著、河出書房新社、2009年)
ひらがなは、原資料から清音の文字すべてのキャラクターが抽出できました(「く」はなかったので「ぐ」で代用)ので、全体的な大きさ、結構などを修整していきました。
全体の状態が確定したところで、一字一字のレベルでの調整に入ります。一字一字では整っていると思われる結構であっても、文字列の中で見ると違和感を覚えることもあります。
寄り引きの確認のためには、全字種全組み合わせの出力物を作成しました。ある特定の組み合わせだけだと判断がゆれてしまうことが多いからです。
納得がいくまでテスト出力と微細な修整をくりかえしました。その段階では自分だけの目では見落とすことがありますので、第三者の意見を聞いています。
『遺伝子医療革命 ゲノム科学がわたしたちを変える』
(フランシス・S・コリンズ著、日本放送出版協会、2011年)
『このベッドのうえ』
(野中柊著、集英社・集英社文庫、2010年)
■ファミリー展開
『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』
(川上未映子著、講談社・講談社文庫、2009年)