●ふでづかい
うねりのあるふでづかいです。くねくねと、しかしリズミカルに連綿していきます。緩急の変化も少なく、「あたり」や「かえし」もゆるやかです。とくに「き」「さ」「ゆ」などは大きな円弧を描くような筆遣いになっています。「まわし」もおおらかなカーブです。「あ」「の」「や」などはもちろんのこと、締めることの多い「せ」「を」もおおらかなカーブになっています。
●まとめかた
ふくよかなまとめかたになっています。大小差が大きく、また墨継による潤滑による変化がつけられていますが、このあたりは活字書体としては統一されるべきところです。
●ならびかた
読ませるための写本なので、見せるための色紙などと違い、連綿による行のゆれは少ないようです。
「小夜姫」
「壷坂物語」「松浦長者」「竹生島の本地」などの題号をもち、御伽草子・奈良絵本だけではなく浄瑠璃でもよくしられている。
原資料は、『京都大学蔵むろまちものがたり6』(京都大学文学部国語学国文学研究室編、臨川書店、2000年)に収録されている『さよひめ』(奈良絵本 京都大学文学部蔵)です。写本、列帖綴、上中下三冊からなっています。製作年、製作者、書写者ともに不詳です。
室町時代から江戸初期に流行した短篇の物語類は、のちに御伽草子、室町物語などといわれるようになりましたが、その一部は挿絵入りの短編物語の「奈良絵本」の形で伝来しています。
奈良絵本とは、挿絵入りで書写された御伽草子であるということができます。御伽草子は、現在のところ約400編の作品が現存しています。その制作者や制作時期などの詳細はほとんど不明ですが、なかには『浦島太郎』や『一寸法師』など、今日まで読み継がれている作品もあります。
これらの作品名や、御伽草子というジャンル名から、「おとぎ話」や「童話」にあたるものと考えてしまうかもしれませんが、そのような話ばかりではなくて、多種多様な内容が記されているようです。
■組み見本
漢字書体は、
左:金陵
中:聖世
右:花信
『うるしの近代 京都、「工芸」前夜から』図録
(京都国立近代美術館、2014年)
『さよひめ』は連綿が多用されていますが、丹念にさがすと独立したひらがなをみつけだすことができました。連綿されている文字でかたちのくずれていない数文字を加えれば、すべて揃えることができました。
書写されたものですので、大きさに変化がつけられていました。ひらがなの活字書体化にあたっては、どのような組み合わせになっても違和感のないようにしなければなりません。とりわけ「こ」「よ」「る」などを大きくしながら、全体的な調和をはかっていきました。
連綿されているものから抽出した「ひ」「や」は前文字からの脈絡線を削除しました。また「お」「か」は文字の中の脈絡線を切断しました。削除しても全体の組み立てに影響を及ぼすものではありません。
大きく形姿を整えたのは、「も」と「せ」の2字ぐらいです。このままでは現代においては読めないと思えるからです。また「ほ」「ぬ」のむすびは、「は」「ぬ」にイメージを合わせました。
小サイズで使用されることを考慮にいれて、太さは揃えていきました。特にむすびなど潰れてしまいそうなところは、心もち広くなるようにしました。
『現代怪奇ファイル』
(ミリオンムック94 別冊怖い噂、ミリオン出版、2012年)
『リアル・シンデレラ』
(姫野カオルコ著、光文社、2010年)