ふでづかい
漢字の隷書体は、逆の方向から入れて書く「蔵鋒」となっています。筆を十分開いた方筆で、ゆっくりと強く書かれているのです。「くれたけ」も同様で、隷書体にみられる、鋒を右上に払う「波磔」こそありませんが、筆勢をたくわえて払うということを意識しました。

まとめかた
まきこみ、うねりによるふくらみがなく、いくぶん締まった感じにみえます。字型(円形・菱形・逆三角形・正方形・縦長方形・横長方形)の差もすこし大きいように思えます。

ならびかた
原資料の字間は二分アキですが、ベタ組みを基本に設計しています。

森川龍文堂
森川龍文堂は1902年(明治35年)1月、森川竹次郎によって大阪に創業された。金属活字鋳造と印刷機器販売をおこなう会社である。森川健市が第2代社長に就任して、昭和初期には積極的に活字見本帳を作成した。そのひとつが1933年(昭和8年)11月1日、総合活字見本帳『活版総覧』というB6版・322ページの活字ライブラリーである。つづいて1935年(昭和10年)11月5日には、和装本146ページの活字見本帳『龍文堂活字清鑒』を発行した

 原資料は『活版総覧』(森川龍文堂活版製造所)の12ポイント呉竹体活字の和字書体です。
 もともと和字書体は、漢字書体とは別の歴史を刻んできたものです。ですから漢字書体に対して、和字書体や欧字書体を従属させるのではなくて、それぞれを独立したものとしてとらえ、より適合する組み合わせを考えるという方法がよいのではないかと思います。
 明朝体に組み合わせてきた和字書体と楷書体に組み合わせてきた和字書体とは大きな違いのないものです。せいぜい、フトコロを広くしたり、太細をはっきりつけたりして、調和させています。このような楷書体と明朝体に組み合わせる和字書体の関係は、隷書体とゴシック体にも当てはまるのではないかと思いました。楷書体に明朝体の和字として制作されたものを組み合わせるのと同様に、隷書体にはゴシック体の和字として作られたものが合うようです。


■組み見本

 カタカナも『活版総覧』および『龍文堂活字清鑒』に掲載された12ポイント・ゴシック活字を使用したページから、できるだけのキャラクターを抜き出しました。不足のキャラクターは、それらのイメージに合わせて新たに制作しました。
「ヨ」や「ロ」の下部は、隷書体との組み合わせを考えて、突き出さないようにしました。
(左の比較見本はボールドですが、当初はミディアムのウエイトで制作しました)

漢字書体は、
 左:月光
 中:銘石
 右:洛陽

『やわらかなレタス』
(江國香織著、文芸春秋社、2011年)

『字音假字用格』は漢字カタカナ交じり文なので、カタカナはだいたい揃えることができました。「ネ」「ヰ」「マ」がありませんでしたので、書風をつかんだ上で新たに書き起こしました。
 そのほかの文字で大きく形姿を整えたのはありません。全体的に統一感を醸しだすように筆づかいや形姿を整えていきました。
『字音假字用格』は漢字カタカナ交じり文なので、カタカナはだいたい揃えることができました。「ネ」「ヰ」「マ」がありませんでしたので、書風をつかんだ上で新たに書き起こしました。
 そのほかの文字で大きく形姿を整えたのはありません。全体的に統一感を醸しだすように筆づかいや形姿を整えていきました。

『活版総覧』に掲載された12ポイント・ゴシック活字を使用した1ページから、できるだけのキャラクターを抜き出しました。さらに不足の字種は『龍文堂活字清鑒』の12ポイント・ゴシック活字から拾い出しました。これでほとんどの字種をサンプリングすることができました。
 当初は、本文用としての使用を考えたときには、やや細くしたほうがよいと思われましたので、まずミディアムから制作しました(左図はボールドで比較しています)。
 原資料は漢字ゴシック体と組み合わせるために制作されたものなのですが、隷書体との組み合わせを考え、また本文として読みやすくなるように小さめに設定しました。
 最近のゴシック体のようにエッジをはっきりとたてないようにして、印刷物のとおりの丸さを浮きだたせることにしました。
 隷書体との組み合わせを意識しながら、修整をすすめていきました。

(左の比較見本はボールドですが、当初はミディアムのウエイトで制作しました)

『らいほうさんの場所』
(東直子著、新潮社・新潮文庫、2009年)

『しずかな日々』
(椰月美智子著、講談社・講談社文庫、2010年)

 こちらに組み見本があります。

■ファミリー展開