ふでづかい
 つながり(脈絡)が多くあるにもかかわらず、彫刻によるシャープさが色濃く残されています。とくに「ら」「り」のシャープさはほかの書体に見られないものです。「さ」「き」のかえしはしなやかな直線になっています。そのほかのキャラクターも、やや直線的な雰囲気を醸し出しているようです。

まとめかた
「あ」「わ」「の」は楕円形に内接しますので、私は「いぶき・ひのもと体に分類することにします。字型の差もすこし大きいように思えます。「え」「そ」のように、全体的に動的なイメージがあります。

ならびかた
 宋朝体や清朝体(楷書体)との混植を考慮し、やや小さめの字面に設定しました。

内閣印刷局
 明治4年7月に大蔵省に紙幣司が置かれたのを国立印刷局の創立年としている。そのわずか20数日後には紙幣寮とあらためられ、従来は民部省通商司、大蔵省出納寮および租税寮で処理していた事務の一部をおこなうことになった。
 大正13年12月の行政整理によって、印刷局は内閣の内局、内閣印刷局となった。昭和18年11月に大蔵省印刷局、平成13年4月6日より財務省印刷局と変わった。
 平成15年(2003年)年4月独立行政法人国立印刷局となり、現在に至っている。

 原資料は、内閣印刷局の創立70年を記念して昭和18年に発行された『内閣印刷局七十年史』です。本文にもちいられている和字書体は内閣印刷局の伝統的な書風の完成したものです。
 1877年(明治10年)の紙幣局活版部『活版見本』から復刻するということも考えましたが、この書風を正しく受けついで、さらに完成度を高めているという点では、この『内閣印刷局七十年史』の本文で用いられた書体のほうが魅力的に感じられました。
 そういう理由から『内閣印刷局七十年史』に使用されている書体をもとに制作することにしました。しかも、この書物は本文が398ページありますので、全キャラクターをサンプリングするのに十分でした。


■組み見本

カタカナも同様です。まずはもとの線質を再現することからはじめました。大きさをそろえたり、太さをそろえたり、寄り引きをなくしたり、精緻化していかなければなりません。

漢字書体は、
 左:蛍雪
 中:金陵
 右:龍爪

『あなたのそばで』
(野中柊著、文芸春秋・文春文庫、2008年)

 サンプリングしたものをアウトライン化するといっても、小さいポイントのものを拡大するわけですから、もともとの線質が再現されているとはかぎりません。まずはもとの線質を再現することからはじめました。
 基本的なまとめかたは完成されていますが、さらに精緻化していかなければなりません。すなわち、大きさをそろえたり、太さをそろえたり、寄り引きをなくしたりということです。
 ここに見るややうねりをもった力強いふでづかいは、現在ではなかなか出すことはできません。復刻とは、原石を磨き上げて、もともと持っている輝きを最大限にまで表出していく作業なのではないでしょうか。

『忘れられた花園 上』
(ケイト・モートン著、東京創元社、2011年)