●ふでづかい
書写された原稿を版下にして彫刻したものですが、急いで彫らなければならない実用性からでしょうか、画線の直線化の傾向がみられます。ちょうど中国・元代の刊本において、彫刻風字様に変化していることと近いものを感じます。
●まとめかた
縦長の形象をしている文字が多くあります。おなじ井原西鶴の著作である『好色一代男』や『日本永代蔵』ではそれほど縦長ではありませんので、『世間胸算用』の筆耕者独特の筆跡ではないかと思います。
●ならびかた
連綿で、字詰めは固定されていません。
井原西鶴(1642-1693)
大坂生まれ。本名は平山藤五といわれる。1682年(天和2年)、西鶴は『好色一代男』を出版。以後、西鶴は小説の流行作家としてつぎつぎに傑作を世に問う。西鶴の作品のいずれもが、元禄の町人や武士の実生活の様相を見すえた作品である。『世間胸算用』出版ののち、西鶴は目を病み執筆もままならまくなったようだ。そして盲目の娘が逝った翌年の1693年(元禄6年)8月10日、西鶴はあとを追うように大坂で亡くなった。法名仙皓西鶴、享年52歳。墓は寺町の誓願寺にある。
原資料は『世間胸算用』(西島孜哉編、和泉書院、1998年)です。この影印本のオリジナルは京都府立総合資料館に所蔵されているものです。国立国会図書館所蔵本が初版であり、この京都府立総合資料館所蔵本などはページ数を訂正した再版です。
元禄時代には上方の経済がめざましい発展をとげました。大坂と京都を中心に町人層が新しい文化の担い手になり、はじめて庶民の生活や心情を描いた文学が生まれました。上方とは「上(皇居)のある方角」という意味で、京都およびその付近一帯をさすことばです。元禄時代を中心として大坂と京都で行われた町人文学を上方文学といいます。
大晦日の短編集である『世間胸算用』は、美濃判五巻構成です。各巻4話ずつ全20話からなっています。元禄時代の町人にとって一年間の総決算日である大晦日の賃借支払いの諸相を描いたものです。
ほとんどが京都・大坂を舞台としており、登場人物が京都・大坂の住人です。上方中心の題材に限定されています。名もない中流階層や極貧層の町人が主役であって、もっぱら借金返済のやりくり話に集中しています。
■組み見本
カタカナはほとんどありませんので、あらたに制作するほかありません。ひらがなのイメージにあわせて、新たに制作することにしました。
漢字書体は、
左:金陵
中:龍爪
右:志安
準備中
画線の直線化の傾向がみられ、縦長の形象をしている文字が多くあります。ほかの書体との差別化のポイントなので、これを生かしながら復刻することにしました。
ほとんどが連綿で構成されているので、キャラクターを単体で取り出せるものは少なく苦労しました。できるだけ単体のものを選ぶようにしましたが、単体の見あたらないものは、しかたなく連綿の脈絡をカットして取り出すことにしました。
これらの連綿体のものは終筆が次の文字に向かっており、一字になるとバランスが悪くなります。オリジナルに執着しないで、単体のものにあわせておさまりを重視してデザインしました。